書評って言うほどじゃないですが

これはいい!と思った作品を紹介します

月の立つ林で/青山美智子

 

本は手に取って選ぶもの、と思っていたのはほんの数年前。だけど今はネットの広告でもわかる。自分にとって読むべき本かどうかが。

 

あらすじ

病院を辞めた看護師、売れないお笑い芸人、嫁いだ娘とうまく話せない男・・ 不器用に生きる人々がそれぞれの明日を模索する。ポッドキャストの「ツキない話」に心を癒されながら。

 

感想

本屋大賞ノミネート常連の青山美智子の連作短編集。amzonから届いた文庫本は、表面にキラキラした装飾印刷が。他の文庫本も最近のはみんなキラキラしている。高くなったからこれぐらいしてくれてもいいか。でも私は昔のうす~い装丁も好きだけど。

 

ポッドキャストの番組「ツキない話」というモチーフが、最初は嘘くさく感じたが、読み進めていくうちに、そんなことを思うのは自分も疲れているんだと気づいた。

 

それぞれ違う主人公の話が描かれているが、同じ町に住み、どこかでつながっているという設定。登場人物はだれもがやさしい人ばかりだ。心のどっかで「そんなに簡単に解決できたらね」と思いながらも、1話読み終わると涙ぐんでたりする。うまいね。

 

登場人物はどの人も「まじめでまっすぐ」なのが共通している。いや、最初からそうなのではなく、「ツキない話」を聞いて、心が浄化されていくのだ。「ツキない話」は月にまつわるウンチクを、タケトリオキナと名乗る人が静かに語る架空の番組。

 

彼らがだんだんと優しい人になり、自分の道を見つけていくのを、読者は短時間にごく自然に感情移入できるのは、この「ツキない話」に浄化されていったのかもしれない。月には不思議な力がある。月という言葉そのものにも、その姿にも神秘的な魅力がある。

 

この短編集は、それぞれのストーリーの良さに加えて、背景を彩る月の存在が、物語のコクを増しているように思う。さらに表紙のキラキラと付録の青い栞が、読者の心をロマンチックに持って行くことに成功しているようだ。

 

 

 

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リバース/湊かなえ

 

あらすじ

地味なサラリーマンの深瀬にはコーヒーを通じて知り合った美穂子という恋人がいる。

あるとき美穂子のもとに「深瀬は人殺しだ」という手紙が届いた。

深瀬の脳裏には学生時代の苦い思い出が蘇っていた・・

 

感想

もしかしたらテレビドラマの方が話がふくらまされていて、しかも事件の動機がはっきりしているので納得するかどうかだけに絞るとドラマの方が納得するだろう。これは小説を読んだ後に、Wikipediaでテレビドラマのあらすじを追った結果、そう思ったのである。

 

だかしかし、「リバース」の世界観とは、物語がコーヒーの香りとともにあり、最後にその癒しの小道具自体が覆るという、小手先でありながら根本を壊す仕掛けによって小さなショックをもたらすという、「切れないナイフで死ぬ」ような歯痒さに満ちているところが魅力なのだ。

 

ドラマのように、いい感じで終わってしまうと、まったく別物ではないかと思わなくもない。だけどいろんな事情もあるのだろう。

 

さてこの小説、美味しく淹れたコーヒーがいたるところに出てくる。全編、コーヒーの香りが立ち込めているのである。イヤミスの女王(イヤミス・・イヤな読後感をもつ小説の事)と言われる湊かなえが、こうやって読者を癒したままで終わるはずがない。

 

 

 

実は最初から疑ってかからずにはいられなかった。コーヒーは癒しのためだけにあるのわけではあるまいと。だから結末は想像できたがその材料がわからなかった。なるほどそう来たかというもので、やっぱりイヤな読後感にちゃんとなったのである。

 

この繊細な仕掛け、イヤな読後感をドラマが反映していたかどうか、ドラマを見ていないのでわからない。ただ、ドラマのあらすじを読むと、小説でスパッと終わった後、きっと美穂ちゃんならそうしただろうなと想像したようになっていたのでイヤな感じじゃなさそう。まあそれはそれでよかったとは思うが。

 

そもそもこの作品、ミステリーでありながら登場人物の人間性をここまで掘るのかと思わずにいられない。やがてドラマになるのを想定してでもいるのだろうか。じゃあ小説って何だろう、という思いを抱くことになってしまったのは少しだけ残念。

 

思ったより反転しないところと、他の作品に比べて切れ味が悪い、という不満が残るのも正直なところ。ひょっとしたら好き嫌いが分かれるかもしれない。

 

 

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汝、星のごとく/凪良ゆう

 

きらめく星のようにではなく、薄暮の空に楚々とかがやく夕星(ゆうづつ)のように、これからさきずっと胸のどこかに確かに光ってるんだろうと思う作品に出合った。

 

あらすじ

 

瀬戸内の島に母親と移り住んだ17歳の櫂。同じ高校に通う暁海と出会い、2人は母親を背負わなくてはならない境遇が共通していた。

 

惹かれあう2人だったが、櫂は自分の生きる道を見つけて東京へと旅立つ。暁海も追いかけたいが母親を残していくことができない・・。

 

感想

 

だれもが絶賛する本屋大賞受賞作。あらすじは青春小説のようだが、いやまさしくそうなのだが、そうなのだが読み終えた後、私の中のどこかにうっすら星が点った。

 

17歳の男女が出会い、自分たちだけではどうしようもないものを抱え、運命に翻弄される。筋書きは恋愛青春小説。だけどそれだけじゃない。

 

ていねいにていねいに主人公ふたりの胸の中を説明しながらセリフが語られ、物語は進む。これほどまでに深い胸の内をさらすことで、彼らの姿かたち、どんな香りがするのか、どんな声なのかも聞こえてくるような気がした。

 

そしてクライマックス、完全に櫂と暁海は私に憑依して静かに受け止める。なにも音がしない時間にいるような気がする最後の20ページ。

 

暁海がある封筒をあけて、中に入っていた新しい本のタイトルが・・そこで不覚にも涙腺が緩む。それまでの人生を一緒に歩んだように思えた。

 

そういうことか、と絶賛される理由がわかり本を閉じた。

 

だれにでも星が点るのかどうかわからないが、もしも点すことができたなら、その時はこの本に出合って良かったと思う1人になれるのだろう。

 

 

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長いお別れ/中島京子

 

題からは地味な印象を受けるが、内容はまったくもって面白い。確かに物語は紹介されていたあらすじの通りなのだが、全然悲壮感が無い。むしろクスッと笑える。

 

あらすじ

 

認知症を患った東昇平が徐々に父でも夫でもなくなっていく・・。

家族の10年を追った連作短編集。

著者の中島京子自身が、父親を見送った経験がもとになっている。

 

感想


クスッと笑えると書いたが、認知症がだんだん進んでいく昇平のやることがだんだんおかしくなるのでそれが笑える、ということではない。少々はそれもあるが。

 

認知症を患っている人を取り巻く家族のいろんな事情がそれぞれあり、のっぴきならないこともあれば、どうでもいいこともあり、それらが織りなす日々の小さい事件たちに、「ああ、そうそう」とうなずいてしまい、そして笑いに代わるのだ。

 

介護を経験した人でないと書けない内容であることは間違いない。そして同じく介護を経験した者として、わかるわかるという感想と、まあこれで済んでよかったじゃんと言いたい気持ちが混ざり合う。

 

老々介護の典型だと思うが、介護しているお母さんは明るい性格なのか、全然悲観的ではないのが救いであり笑える要素だ。

 

後半、娘たちが疲れ果てる場面が描かれている。そう、介護は子育てに似ているけれど子育てを経験した人でも「慣れ」が必要なのだ。お母さんは認知症が少しづつ進行するので介護に慣れて行ったのだろう。

 

さまざまな問題を抱えつつ、小気味よい展開をしていく当作品、「ドラマ化してもいいじゃないか」と思っていたら、すでに映画になっていた。なんだ聞いたことのある題だと思った。山崎努はうってつけだ。今度みてみることにしよう。

 

 

 

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夜の底は柔らかな幻/恩田陸

 

前後編の大作だが、まったく長く感じない、持って行かれるように読み進めた作品。だが終わり方については消化不良な人もいるかもしれない。

 

あらすじ

架空の独立国家途鎖国へ潜入捜査に向かう列車の中で、特殊能力「イロ」を持つ有本美邦は同じように能力を持つ少年に出会うが、少年は列車を飛び降りてしまう。

葛城晃たち入国捜査官が手荒な捜査を始める。途鎖国では指名手配犯の神山が「ソク」と呼ばれるリーダーとして君臨していた・・

 

感想

このタイトルは恩田陸がファンであるミュージシャン久保田早紀のアルバムタイトルでもある。意味深で不穏な匂いのタイトルはこの小説にぴったりだ。

 

もしくはこのタイトルだからこそ小説全体の品格が保たれたのかもしれない。頭の中で映像化してしまうと、スプラッターなアニメが生成されそう。しかし「夜の底は・・」の響きのおかげで、そのあたりが救われている。

 

つまり、内容はかなり残虐なシーンの連続なのである。まあそこが面白いとも言えなくもないが、けっこう最後まで救いが無く、気持ちの持って行きように困ってくる。だからあまり登場人物に深入りせず、知らない漫画をめくるように残虐シーンは読み飛ばした。

 

恩田陸作品の特徴として、クライマックスの盛り上げ方の上手さがあるが、この作品もじわじわと盛り上げて、少しもよそ見できないようになっている。クライマックスにさしかかったら、休憩なしで最後まで読まされてしまうパワーを持っている。

 

だがこの作品に限ってのことだが、最後の最後にふっと電池切れになって終わる。というように見える。これを巧みな技とみるか、あやかしとみるか、それとも・・これは各自の好みの問題かもしれない。

 

だがなんとなく硬い素材で作られていた世界が、最後に急に布繊維になっちゃうみたいなところ、上下巻読み終えて「んんんんん」と唸ってしまったのは、まだ私の咀嚼力が乏しいのかもしれない。

 

 

 

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武道館/朝井リョウ

 

 

これがただのアイドル小説ではないことは最初のページからすぐにわかる。限りなく近づきながら、それでいて彼女たちを遠くから見つめていく。

 

あらすじ

小さい頃から歌って踊ることが好きだった高校2年生の愛子は、アイドルグループ「NEXT YOU」に所属し、学業と両立させながら活動している。レッスンや地方での仕事など下積みの日々だったが、心の安らぎは幼馴染の大地とのLINE交換だった・・

 

感想

朝井リョウがすこぶる面白い人物だということをテレビで見てから、どうしても彼の作品が読みたくなった。

 

意外にも、いやまったく想像通りの部分もあったが、文体がきれいだなと感じた。そして、まだ若い。17歳の感情が、熟れた果物みたいに香るように伝わってくる。

 

アイドルは恋愛禁止。だけどいけないいけないとわかっていても幼馴染へのLINEが忙しい日々の支えになっている。その感情を直接の言葉では表現しないけれど、愛子のちょっとした態度でその心が伝わってくる。

 

私たちはアイドルの愛子と同化しながら、それでいてとても遠いところから彼女の明日がどうなるかをみつめていく。たとえ、どんな結末になっても、いまという時は常に一生懸命なのだ。

 

そして象徴的な場所、武道館。昔は売れるようになったミュージシャンやアイドルがどうしても立ちたい場所だった。武道館という響きがなんとも特別感がある。普通の人は入れない場所、というイメージが湧く。そんな武道館に愛子は立つことができるのか・・。

 

実際には芸能界はもっと複雑で、まともな世界ではないだろうが、そこはすべて剥ぎ取られている。読み手もそれはわかっているけど、まずはアイドル自身の物語を共有したい、という思いで読んでいく。

 

クライマックスでは物語が動き、私たちも手に汗を握る。なるほどこうきたのか、とうまさを感じながらラストへ向かう。さては朝井リョウ、おもしろいのは人物だけではなかった。

 

 

 

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暗幕のゲルニカ/原田マハ

 

 

ピカソの「ゲルニカ」の実物大レプリカを愛知県美術館で見たのは20歳のとき。そのときはじめて、絵に圧倒されるということを経験したと思う。スペイン内戦の悲劇のことも何も知らなかったころ、それでもその絵は私をしばらく絵の前にくぎ付けにしたのだ。

 

あらすじ

 

9.11で夫を亡くしたニューヨーク近代美術館のキュレーターである瑤子。反戦の思いで「ゲルニカ」を日本に招待することを考える。しかしそれは簡単な道ではなかった。

 

1937年、スペインの都市ゲルニカを反乱軍が空爆し市民が多く犠牲となった。それをパリで聞いたピカソは怒りに燃え、筆を取って描き始めた。横でその様子を写真に撮っていたのは恋人のドラだった。

 

フィクションとノンフィクションをまじえた2つの物語が交互に描かれる。はたして「ゲルニカ」の運命は。

 

感想

 

まずは「ゲルニカ」という絵を見たことがあるかどうか、もしくはどういうシチュエーションで何を描いたのかを知っているかどうかでこの題への反応が決まる。

 

が、しかし何も下敷きがないままに読み進めても、スペイン内戦の悲劇的な歴史や、ピカソのこともちゃんと説明されているので、実はとても読みやすい作品となっている。

 

現代パートにも、1937年パートにもサスペンスの要素が満載なので、どんどん手に汗握る展開となる。題の音の響きそのままに、数奇な運命の「ゲルニカ」の顛末を見届けたくて、夜中まで読み続けた。

 

だが少しばかり、フィクションが過ぎるので、しばらく経ってから「なんだったかな」という思いが湧いてくるのも事実。

 

ミステリー要素とは、このように惹きつけられるけれども、終わってみると儚い。いっときの恋愛みたいなのである。

 

ピカソ 絵画 額入りキャンバス ウォールアート, ゲルニカ 有名アートプリント ピカソ複製画 写真 装飾 アートワーク 70x140cm (28x55in) フレーム付き

 

 

 

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